バルバロムの思考迷路

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セリーグDH制導入は必要か

セリーグDH制の導入は必要か

 

11/21に始まる日本シリーズ。1985年以来の全試合DH制導入となった。コロナ禍による過密日程の中、投手の負担軽減のためにと18日にソフトバンクから申し入れがあり、巨人側も受諾。この日の臨時実行委員会で今季限りの特例として決まった形だ。

ちなみに1985年の全試合DH制は、もともと全試合DH不採用であったのに対して、85年から全試合DHあり、なしを隔年で行おうというものである。86年全試合DH制なしを経て、87年から現在のパリーグ主催試合のみDH制となった。

 

シリーズDH導入はコロナ禍での負担軽減のため双方が合意しているため、特に異議は申し上げるつもりはないが、巨人はホームに東京ドームを使えずさらにDH制導入と一種のハンディがある状態となってしまった。個人的には、ホークス側から全試合DH制導入を提言したのいかがなものかとも思う。DHなしでは戦えませんと駄々をこねているように見えるからだ。千賀も打席を楽しみにしていたようだ。これでホークスが日本シリーズ敗退したら、「リーグ戦2位と14ゲーム離したのに」「DH制を提言したのに」「巨人のホームが使えないのに」「戦前圧倒的有利と言われていたのに」と33-4阪神に並ぶ痴態として後世まで語られることになってしまうだろう。

 

 

今回の全試合DH制導入、工藤監督のデスパイネを守備につかせたくないなどの思惑もあるだろうが、そもそもの発端は昨年シリーズ後から巨人原監督が提言しているセリーグDH制導入論であろう。昨年シリーズ後、原監督は、「セ・リーグはDH制というのがないからね。しかし、DH制は使うべきだろう。DH制というのが相当差をつけられている感じがあるね」」「五輪、WBC、あるいは、少年野球でいうならば、教育的な(部分で)、レギュラーが9人から10人になる。やっぱりレギュラーは増えた方が、ファンだって、あるいは少年たちだって、いいと思うしね」と発言した。野球人口の面や普及の考えもあるだろうが、やはり問題は、DH制の有無がセパの差につながっているとの発言だろう。

しかし、2004年まではセリーグ日本シリーズを制してきていたはずだし、昨年のホークス日本一でようやくセパの日本一回数が並んだ。DH制は1975年からパリーグが低迷する観客動員の打開策として導入したものであり、75年から04年までは途中西武黄金期などがありながらもセリーグが球界を席巻してきた。一方で、05年から15シーズン日本シリーズがあったがパリーグが12シーズン制している。なにか差があるとすれば75年から導入されているDHではなく、05年以後の何かにあると考える方がいいのではないか。

 

1つは、ドラフト制度の変化。逆指名・自由希望枠がなくなり、くじで有力選手がパリーグに流れたことがあるだろう。もう1つは球界再編問題の発生により、パリーグ各球団が危機感を持ったことだろう。近鉄の消滅、ダイエーロッテの合併案、ダイエー身売りと球団が消えるという事実を目の当たりにした。経営改革を図り、地域に密着した集客や人気確保に腐心。今や観客動員をはじめファンの熱気はセと謙遜ないほどになり、呼応するように選手のモチベーションとプレーへの闘志が高まってきた。そのためDH制がセパの差につながっているという主張は疑問である。

 

 にもかかわらず、なぜセリーグDH制導入論は単なる戯言では終わらないのか。

それは、セリーグDH制導入論にメリットがあるからだ。

 

まず、怪我対策という観点。セリーグは投手が打席に立つ。打席に立つことで死球や走塁で怪我のリスクが高まる。DHによってそうしたリスクを回避できるということだ。

次に観客の視点面。9番にほぼ自動アウトの投手がいることで、楽しみが減る。怪我を恐れ無気力な打席を見たくない。単純に投手より打者の打席が見たい。という観点。

そして育成面。DHを取り入れることでスタメン打者8人から9人となり1人分試合に出られて育成が捗られるというもの。また守備の苦手な若手を試合に出せるということ。投手も打席に入る場合はその打席は相手ピッチャーにとって息を抜ける瞬間でもあるが、DH制になることで投手は息を抜く場面がなくなりレベルも上がっていくというだ。また、投手に代打を出さないので、投手が長くイニングを投げられやすいという主張だ。

また、セリーグでは打者も打席に立つため、インコース攻めや死球が多いと報復されるのではという心理が働き、セリーグの投手はインコース攻めがなかなかできないと言われているようだ。セリーグの打者も頻繁にインコースに投げられるわけではないので、交流戦日本シリーズでこういう球ばかりになると対応が難しいのだという。

されに選手寿命面でも守備に衰えのある選手をDHで使用できるということ。仮にセリーグにDHがあれば巨人阿部はもう2,3年長く現役をやっていただろう。

中日大野投手も「採用する理由によりますよね。それが負けているからということなら、敗因はもっと他のところにあると思っているので。」としながらも、「選手としての立場なら大賛成です。何よりも投げることに集中できる。打撃を練習でやるのは気分転換になったり、楽しさもあるんですが、試合の中では周囲の皆さんが思っているより負担になるんです。(打撃は得意ではないが)打てるかどうかより、準備に対してですね。僕は交流戦での成績もいいと思っているし、好きなんですが、そこも関係しているのかなという自己分析です」

と発言している。

国際大会などではDH制が基本となっているということも理論の根拠の1つであろう。

 

TwitterなどでもDH制導入派のツイートが多く見受けられた(反対派は発言しなかった、検索に引っかからなかったということもありうるが)が、私はあえて異を唱えたい。

 

 

私はセリーグDH制導入に反対だ。

 

まず、今の制度で満足しているということが前提である。

そのうえでメリットを吟味していく。

まず、育成面。これはあまり関係がないと思う。DH制を導入することで、野手は9人スタメンで出るが代打を使う機会が減る。一方DH制がないセリーグでは、投手の打席で代打を使う等、結果的に試合に出る人数は変わらないのでないだろうか。

投手の打撃力は打者に劣ることは仕方ないが、だからといって何も対策なく三振し続けるのはいかがなものか。そもそも野球は9人スポーツと定義されており、投手が打席に立つのは前提となっている。単に打撃練習して打てばいい話なのではと思う。その投手が打席に立つ経験・慣れを持つアドバンテージを活かしてパリーグと戦うべきなのだ。

インコースうんぬんに関しては、投げればいいし、投げる技量をつければいい。報復は別の話。そもそも報復はあってはならないのだ。悪しき慣習を前提としてはいけない。

 

巨人OBの堀内氏は「野球の原点を残したい」と説明。「時代は流れ 色々なものが移り変わり それに合わせて変えることももちろんあるし必要だろう。その一方で『不変』 どんなに時代が変わろうと伝統や守っていくこと それもあると思う。俺にとってその『不変』の1つが『投手は9人目の野手』という野球の原点 投手は投げるだけじゃなく守備も攻撃もしっかりこなす。という原点」と、投手について持論を展開した上で、「DH制だとピッチャーは気が抜けないから力はつくだろうね。でも、DH制だから強いって言ってしまうのもちょっと違うんじゃないかなぁ」

 

一見、前時代的と思われるが野球は9人であるという大前提があるからこそのコメントなのだろう。

 

こういうと、「そう言うならば、パリーグがDH制を廃止しろ」という反論があるだろう。

しかしこれにも反対だ。そして、私がセリーグDH制導入反対の一番の理由が次に述べるものだ。

 

 

「セ・パ2リーグ制12球団制の維持のため」

 

 

セリーグはオーソドックス9人野球、パリーグはDH制を取り入れた野球という明確な違いがある。そしてこの個性の違いが大事で維持するべきなのだ。

DeNAの今永昇太は、「難しい議論ではありますね。強い、弱いも少しは(DH制と)関係あるのかとは思いますし。投手として言わせてもらえれば楽ではあります。バントや走塁の練習をしなくて、投手の練習を増やせますから。ただ、僕個人の考えとしてはセパそれぞれいいところがあっていいと思うし、差別化をはかるというか違いがあっていいんじゃないかと」

セパの個性の差というものを選手も感じ、大事にしていることがわかる。

 

もし仮に、セリーグDH制導入もしくはパリーグDH制廃止が行われると、このリーグ間の個性の差がなくなる。

そうなると何のためにリーグを分けているのだろうかという主張が出てくるだろう。

 

2004年球界再編問題のときに提唱された1リーグ10球団制。

あの当時、巨人渡辺恒雄を中心とした何かによって、パリーグは風前の灯火となっていていた。近鉄の消滅、ダイエーロッテ消滅の危機、球団削減。1リーグ制導入。パリーグの各球団は、巨人渡辺らの手によって使い捨てのモノのように扱われ、消されようとしていた。

それを救ったのは、古田らを中心とした選手会、そして12球団存続を願うファンの声であった。

 

あれから16年。日本経済、ひいては各球団の経営は、コロナ禍による打撃を受けている。

また、日本人口は減り、野球人口も減少をたどっている。

そんな中で提唱されるセリーグDH制導入。

セパの異なる個性を消すこの導入は、1リーグ制の足掛かりとなるのではないだろうか。

またあの悲しみを味わうのではないだろうか。

 

 

DH制論で大げさだと思われるかもしれない。

しかし、あのときのような急激な変化ではなく、徐々に徐々に、制度の変更を行い、人々の意識を慣らしていく。気づいたときには、後戻りできないところまで来てしまうのだ。

 

球界再編問題後、パリーグは力をつけた。が、球団同士の権力差はまだセリーグが握っている。その証拠が交流戦だ。パリーグの提言で始まった交流戦だが36試合制が、セリーグの要望によって24試合、15試合と確実に減らされている。その間にパリーグから反対の声があったという情報はない。

これは、パリーグの球団がセリーグ、特に巨人をトップとした勢力に権力関係で対等ではないことの現れではないのだろうか

 

ここ数年、申告敬遠制度を採り入れ、タイブレーク制度も取り入れた。導入前は賛否両論いろいろあったが、導入後は全く話を聞かない。申告敬遠はそもそも試合時間短縮が目的だったが導入前後で、時間が短くなったとは感じない。

さらには今後ワンポイントリリーフ廃止という可能性がある。

これらの謎制度を徐々に取り入れている現状、そしていまだ依然として強い巨人セリーグの権力。果たして1リーグ導入の可能性が大げさと言えるだろうか。

 

 

セパDH制の違いは、パリーグの努力の結晶であり、セパ2リーグ12球団維持の証である。

 

長期的な視点からセリーグDH制反対を私は主張する。