バルバロムの思考迷路

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中曽根元首相合同葬、国立大への弔意要請通知問題について思うこと

はい、バルバロムです。

ニュース見てたら、元法学部大学生として気になる記事を見かけたので、紹介したいと思います。

 

1.序

中曽根元首相合同葬に弔意要請 国立大に通知―文科省

17日に都内で行われる故中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬を控え、文部科学省が全国の国立大学などに対し、弔意の表明を求める通知を出していたことが15日までに分かった。通知は13日付。弔旗を掲揚し、葬儀中の午後2時10分に黙とうするよう依頼した

 

 

今年、前首相に抜かれるまで首相最長在任記録を保持していた中曽根元首相。

17日に内閣・自民党によるその葬儀に際して、国立大学に弔旗を掲揚し、黙とうしてくださいと通達した。正直違和感しかないです。個人として弔意を示すのは勝手ですが、それを組織全体として行えというのはいかがなものか。

さて、この通達、憲法や法律に抵触しないのでしょうか。ちょっと見てみましょう

2.憲法に抵触するか

まず、憲法。抵触するとすればこの2つでしょうか。

第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない

第二十三条 学問の自由は、これを保障する。

 

19条は、個人の思想や考え、信仰などに対して禁止や強制、差別などをしてはならないというものです。

 

今回の通達はどうでしょうか。

大学に対して、すなわち大学に勤める教職員に対して、弔旗を揚げ黙とうすることを求めています。

似たような事例として、君が代ピアノ伴奏職務命令拒否事件や国歌起立斉唱職務命令違反事件があります。

君が代ピアノ伴奏職務命令拒否事件は、簡単に説明しますと、とある小学校の音楽専科教諭Aが入学式において国家斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするように校長から言われたが、自分の思想、信条に基づきそれを拒否しました。校長は、入学式当日も改めてピアノ伴奏を行うよう命じましたが、入学式においてAがピアノを弾き始める様子がなかったので、用意した録音テープにより国歌斉唱が行われました。その後、Aは、校長のなした職務命令に従わなかったことが地方公務員法32条と33条に反するとして戒告処分を受け、これに対してAは、その職務命令が自己の思想・良心の自由を侵害する憲法19条違反だとして、東京都教育委員会を相手に戒告処分の取消しを求める訴えを提起しました。

 第一審の東京地方裁判所控訴審東京高等裁判所もAの主張を認めなかったので、Aは、上告したところ、最高裁判所は、Aの請求を斥ける判断を下しました。その判決理由において、校長の職務命令がAの歴史観・世界観それ自体を否定するものでないこと、Aは、法令等や職務上の命令に従うべき公務員の立場にあることなどを理由として、憲法19条違反の主張を斥けました。

 

要するに、入学式は伴奏行為は、音楽教諭として職務上求められることであり、伴奏命令や戒告処分は思想良心に対するものではなく、教員として公務員としてと対応であるから違憲ではないとことです。

 

この判決に対する議論は長くなるのでこの辺にしますが、今回の弔意要請通達はどうでしょうか。

まず、多くの人が誤解しているでしょうが、国立大学教職員はそもそも公務員ではありません。「は?」と思う方がいられるかもしれませんが、これは事実です。

国立大学は2003年に法人化され、現在は独立行政法人となっています。

つまり、厳密にいえば公務員ではありません。

また、弔意を示すことは、教職員が当然に行うべき職務であると言えるでしょうか。

この点から、今回の弔意要請通達は、憲法19条に違反すると言えます。

 

しかし、今回の通達の報道に対し、加藤勝信官房長官は15日の記者会見で、「公の機関に広く哀悼の意を表するよう協力を求めるもので、強制を伴うものではない」

 

となると、話は変わってきます。憲法19条は思想良心に対して強制を行うことを禁ずるものですから、弔意要請通達が、「強制ではない。協力を求めるものです」となると憲法19条の問題にはならなくなります。(実際は協力要請という忖度を求めるものでたちが悪いのですが、訴訟になったときには、過去判例を見るに憲法問題として処理されないと思われます。)

 

23条は教育の自由に大学の自治権が含まれ、この通達がこの大学自治に抵触するかなど諸々の問題がありますが、強制ではないと言われてしまうと憲法問題で論ずることはできません。

(もっとも、この通達を無視したことによって、大学や各教職員が不利益((運営費削減、解雇etc)を被ることがあれば別です。)

 

ではその他の法律には抵触しないのでしょうか。

 

3.法律に抵触するか

教育についての原則が定められている法律。教育基本法には、こんな条文があります。

 

教育基本法第14条第2項

法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

 

法律に定める学校とは、学校教育法第1条に定義されている「学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。」のことです。

 

すなわち大学(その他教育機関)は、特定の政党を支持したり禁止したり、特定の政党を応援するようにまたは反対するために、教育したり活動したりしてはいけないということです。

 

今回の弔意要請通達はどうでしょうか。

今回の中曽根元首相の葬儀は国葬ではなく、内閣・自民党の合葬です。

にもかかわらず、弔旗を掲げ、黙とうを求めることは、自民党という特定の政党の活動を要請していると言えるのではないでしょうか。

この点に関しては、弔意が強制でなくとも、教育に対する政治干渉を行う通達を行っている時点でアウトです。

 

4.そもそも論

そもそも一個人の葬儀に団体全体で弔意を示せというのはいかがなものでしょうか。

民間企業であるならば功績を残した創業者や社長やその他人物に対して、会社全体で弔おうというのは理解できるのですが、今回は内閣・自民党国立大学法人です。

民間企業で例えるならば・・・・

その企業の元トップが退職後亡くなり、役員らと運営を握っている派閥が系列子会社に喪に服せと通達するようなものでしょうか。

うーん例えるのが、難しいですが、要するに筋違いだということです。

 

以前からこのような通達はあったようですが、前例を踏襲してこの通達を出しているいるのならば、その前例が誤っているのだから見直すべきです。

 

5.まとめ

今回の中曽根元首相の合同葬に合わせて国立大学に弔意を要請した通知ですが、教育基本法第14条第2項に抵触するものであり、上にも書きましたが、国葬ではなく、内閣・自民党の合同葬であり、大学および教職員は従う義理はありません。もっと言うならば、大学自治を守り、教育への政治干渉を防ぐのであれば、この通知に従ってはいけないと考えます。

都道府県・各大学機関が適正な対応をとることを切に願います。